しかしそういうような愛人や両親や自分自身から離れている不安は、その不安に慣れるにしたがって、彼自身もだんだん平気になって行くのではないかと考えはじめた刹那、それは一層大きな恐怖に変わる。
何故なら、習慣の錬金術がこうして苦しんでいるものを完全な無関心者(その者にはそんな苦しみの原因が全く莫迦げたものに思われるのだ)に変えてしまい、そうしてその時こそは彼の愛情の対象が消えるのみならず、その愛情そのものさえ消えてしまうかも知れないからだ……
――ふとそんな一節を読みあてた頁から私は目をそらして、私にはまだ慣れきっていない自分の部屋を眺めまわしたのち、それから目をつぶって、今朝のちょっと無気味だった眼覚めを心のうちにまざまざと蘇らせた。