この夢は、唯、単調だが底の知れないような、深味のある色(甚だ不完全な言い方だがそれはピカソの或る絵のような色なのだ)で塗り潰されていると思っていて頂きたい。
私はこの夢のことを久しく忘れていたが、去年の冬、神戸へ行って Hotel Essoyanという露西亜人の経営している怪しげなホテルに泊った時、ひょっくりそれを思い出した。
私がそのホテルのことを写生した「旅の絵」という短篇の中にも登場をするが、そのホテルに一人の美しくなったり、醜くなったりする、変な少女がいて、或る晩十二時過ぎに私がそのホテルに帰って来たら、私の部屋に面している薄暗い廊下のはずれに、そこに二階へ通ずる階段があるのだが、その階段へ片足をかけながらその少女が寝巻のまま立っていて、部屋へ這入ろうとしかけていた私の方をじっと見ている。