しかし、父は先ず、曳舟通りなんぞにある護謨会社や石鹸工場のなかへ私を連れてはいり、しばらく用談をしている間、私を事務所の入口に一人で待たせておいた。
その間、私はすぐ目の前の工場の中できいきいと今にも歯の浮きそうな位軋っている機械の音だの、汗みどろになって大きな荷を運んでいる人々だの、或事務所の入口近くにいつも出来ている水溜りの中に石油が虹のようにぎらぎら光っているのなどを、いかにも不安そうに、じっと何か怺えている様子で、見守っていなければならなかった。
それから父は私の手をひいて、曳舟通りをぶらぶらしながら、その頃出来たばかりの業平橋駅の方へ連れていってくれた。