この一見他奇なく家常茶飯事を書きつづつたごとく見える作品が、この種の作品にありがちな無味乾燥に陷つてゐないばかりか、一種の遊離した美しさを獲ち得てゐるのは、この作品の裏側になつて、ほとんど人目につかずにゐる永井獨特の Imagination の力ではないか。
そしてこんどは、その永井の隱し立てが私達の好奇心をそそるのだ。
かくのごとく、從來の永井龍男の好短篇にあつては、いつも 〔re'el〕 なものと imaginaire なものとが互に表となり裏となつて、扶け合ひながら、微妙な均衡を得てきたのであるが、ここにその表と裏とがごつちやになり、こんがらかり、いつのまにか解けないやうな固い結び目をつくりつつある作品がある。