室生さんはのたれ死をした藤澤清造のことをかなり手きびしくやつつけられてゐるが、その數行のあひだ、室生さんは藤澤清造のことを「渠」と(それは明らかに印刷上の過誤ではなく、二箇所繰返して)書かれてゐる。
私はいつも室生さんがさういふ場合に「彼」といふ字を用ひられることを知つてゐた。
そして、その室生さんがいま不用意にその「彼」といふ字でなしに「渠」といふ字を用ひられてゐるのを見て(室生さんがその使ひつけない字をその時ことさらに用ひられたのだとはどうしても思へない)私は妙に心を打たれた。
室生さんはのたれ死をした藤澤清造のことをかなり手きびしくやつつけられてゐるが、その數行のあひだ、室生さんは藤澤清造のことを「渠」と(それは明らかに印刷上の過誤ではなく、二箇所繰返して)書かれてゐる。
私はいつも室生さんがさういふ場合に「彼」といふ字を用ひられることを知つてゐた。
そして、その室生さんがいま不用意にその「彼」といふ字でなしに「渠」といふ字を用ひられてゐるのを見て(室生さんがその使ひつけない字をその時ことさらに用ひられたのだとはどうしても思へない)私は妙に心を打たれた。