この本の題名に使はれてゐる何か象徴的な感じの黒鳥といふのは、實はクロオデルの洒落なのださうだが、そんなところもなかなか好ましい。
いろいろ好い論文や小品が集められてゐるが、僕が屡〻この小さな本を手にすることのあるのは、大抵はそのなかの「能」といふ小論文を讀みかへすためである。
「劇とは何事かが到來するものであり、能とは何びとかが到來するものである」といふ彼らしい莊重な定義をいきなり冒頭に置いてから、クロオデルは、先づ、橋懸りと本舞臺とからなる舞臺の説明から始め、それから能の音樂――囃子と地謠と――を紹介する。