不安の眼で伊沢の顔色をうかがい蒲団の間へ顔をもぐらしてしまったが、伊沢の怒らぬことを知ると、安堵のために親しさが溢れ、呆れるぐらい落着いてしまった。
口の中でブツブツと呟くようにしか物を言わず、その呟きもこっちの訊ねることと何の関係もないことをああ言い又こう言い自分自身の思いつめたことだけをそれも至極漠然と要約して断片的に言い綴っている。
伊沢は問わずに事情をさとり、多分叱られて思い余って逃げこんで来たのだろうと思ったから、無益な怯えをなるべく与えぬ配慮によって質問を省略し、いつごろどこから這入ってきたかということだけを訊ねると、女は訳の分らぬことをあれこれブツブツ言ったあげく、片腕をまくりあげて、その一ヶ所をなでて(そこにはカスリ傷がついていた)、私、痛いの、とか、今も痛むの、とか、さっきも痛かったの、とか、色々時間をこまかく区切っているので、ともかく夜になってから窓から這入ったことが分った。