この低俗な不安を克服し得ぬ惨めさに幾たび虚しく反抗したか、彼はせめて仕立屋に全てを打開けてしまいたいと思うのだったが、その卑劣さに絶望して、なぜならそれは被害の最も軽少な告白を行うことによって不安をまぎらす惨めな手段にすぎないので、彼は自分の本質が低俗な世間なみにすぎないことを咒い憤るのみだった。
彼には忘れ得ぬ二つの白痴の顔があった。
街角を曲る時だの、会社の階段を登る時だの、電車の人ごみを脱けでる時だの、はからざる随所に二つの顔をふと思いだし、そのたびに彼の一切の思念が凍り、そして一瞬の逆上が絶望的に凍りついているのであった。