そこはもう道ではなくて、人間と荷物の悲鳴の重りあった流れにすぎず、押しあいへしあい突き進み踏み越え押し流され、落下音が頭上にせまると、流れは一時に地上に伏して不思議にぴったり止まってしまい、何人かの男だけが流れの上を踏みつけて駆け去るのだが、流れの大半の人々は荷物と子供と女と老人の連れがあり、呼びかわし立ち止り戻り突き当りはねとばされ、そして火の手はすぐ道の左右にせまっていた。
小さな十字路へきた。
流れの全部がここでも一方をめざしているのは矢張りそっちが火の手が最も遠いからだが、その方向には空地も畑もないことを伊沢は知っており、次の米機の焼夷弾が行く手をふさぐとこの道には死の運命があるのみだった。