北海の孤島へ流刑の身でこんな美しい物語をつくるとは、世阿弥という人の天才ぶりに降参せざるを得ない。
ところで、話はそういうことではないのだが、僕がこの物語を友人に語ったところが(僕はあらゆる友人にこの物語を話した)最も激しい感動を現した人は宇野千代さんであった。
この時以来宇野さんは謡曲のファンになり、頻りに観能にでかけ、僕が文学として読んではいても舞台として殆んど見たことがないので冷やかされる始末になったが、女の人は誰しも老醜を怖れること男の比にはならないのであろうけれども、宇野さんが物語をきいたときの驚きの深さは僕の頭を離れぬことのひとつである。