愈々となってお辞儀だけは済ましたけれども、同時に突然僕の身体に起ったギコチのなさにビックリして、やっぱり僕のような奴は、心にどんな切ない祈願の思いが起っても、それはただ心の綾なのだから実際に頭を下げたりしてはいけないのだと諦らめた。
自殺した牧野信一はハイカラな人で、人の前で泥くさい自分をさらけだすことを最も怖れ慎んでいた人だったのに、神前や仏前というと、どうしても素通りの出来ない人で、この時ばかりは誰の目もはばからず、必ずお賽銭をあげて丁寧に拝む人であった。
その素直さが非常に羨しいと思ったけれども、僕はどうしても一緒に並んで拝む勇気が起らず、離れた場所で鳩の豆を蹴とばしたりしていた。