巧妙に又周到なあやか夫人は、すでにこの夜の突発事に備えて、平常から自室の扉の内側は鍵をかけッ放しておく習慣をつくって人々にも信じさせ、この急場に自室へ逃げこむことが不自然でないというメンミツな用意をととのえておいたのであります。
即ち、土居画伯の到着以来、一馬先生の寝室に起居していられるあやか夫人は、それだけの用意がなければ、この急場に自室へ逃げこむという言訳が成り立たない。
私は始め、そんなにウマク自室の扉の内側にちゃんと鍵がさしこんであったなんて、話がウマすぎると疑ったのですが、矢代先生その他におききしたところによっても、あやか夫人はズボラな方で、常々鍵を自室の内側へカケッ放しにしておく習慣であったという、益々話がウマすぎるので、むしろ全てが長日月に計画せられたメンミツ極まる犯罪であることを益々信ずるに至ったほどでありました。