当家の主人たる一馬先生すら、父多門氏が惨死せられて、片倉老人の打ちあけ話をきかれるまでは、海老塚氏が多門先生の孫に当る人であることを知らなかったほどであります。
したがって犯人も知らなかった、それだけに、この予期せざりし人物の出現は利用価値が大であり、もし海老塚氏の発狂という事件がなければ、一馬殺しの容疑者として最後の仕上げに最も大きな役割をふられることとなったでしょう。
幸か不幸か、海老塚氏は発狂して諸井看護婦を傷害し、留置されてしまったので、最後の仕上げも当初の計画に戻らざるを得ず、即ち、一馬先生の自殺という形による殺人事件が予定通りに行われることとなったのであります。