なぜなら、前夜、広間の柱にハリ紙を見られたからで、事件の犯人を海老塚と信じ、海老塚氏の逮捕によってもはや身に危険のなきものと安堵しておられた一馬先生の驚愕顛倒、不安のほどは同情に余りあります。
不安のあまり寝もやらず明方に及んだ同氏に、恐らくあやか夫人が催眠薬をすすめたものと思われます。
そして、一馬先生は青酸加里をのんで死ぬ、それだけでも自殺で通る筈ですが、真犯人としての自殺という証拠が残されてないために、あやか夫人は無理心中を迫られた格闘の跡を装い、もうダメだ、という一馬先生の告白を世に伝えるために、自身も舌を噛みきって一時喪心するほどの狂言をはたらかなければならなかったのでしょう。