然し、従来の探偵小説の多くは、このトリックにムリをして、そこで人間性をゆがめ、不合理な行為や心理をムリヤリにデッチあげて、又、作者も読者も、探偵小説のトリックはそういうものだと鵜呑みにして疑っていないのだ。
私は中学生ぐらいのとき、佐藤春夫氏の短篇探偵小説をよんで感心したことがあって、もう題名も忘れたけれども、ある男が本を紛失した。
その本を心理通の友人が探してくれる話であるが、要するに、その紛失した人は、本をもって立ち上ったとき、便所へ行く気持になり、その本を二階の階段を降りる途中かに、壁のナゲシのような暗らがりのところへヒョイとのせて行った。