私は中学生ぐらいのとき、佐藤春夫氏の短篇探偵小説をよんで感心したことがあって、もう題名も忘れたけれども、ある男が本を紛失した。
その本を心理通の友人が探してくれる話であるが、要するに、その紛失した人は、本をもって立ち上ったとき、便所へ行く気持になり、その本を二階の階段を降りる途中かに、壁のナゲシのような暗らがりのところへヒョイとのせて行った。
そして小便してしまうと、人はよく排便と同時にやりかけたことをド忘れするもので、程へて本のことをフト思いだした時には、どうしても見つからなくなってしまったのである。