粋一念の恋人たちも、ちかごろの物騒さでは、各の佳人のもとへよう通うまいという王様の冗談に答えて、賊を怖れる恋人に恋人の資格はございませぬという意味を、二行の詩で返したという名高い話があるそうな。
紫の大納言は、二寸の百足に飛び退いたが、見たこともない幽霊はとんと怖れぬ人だったから、まだ出会わない盗賊には、怯える心がすくなかった。
それゆえ、多感な郎子たちが、心にもあらず、恋人の役を怠りがちであったころ、この人ばかりは、とんと夜道の寂寞を訝りもせず、一夜の幸をあれこれと想い描いて歩くほかには、ついぞ余念に悩むことがないのであった。