私はそのころ別の女の人に失恋みたいなことをして(これが又はつきり失恋でもないのだから始末がわるい、非常にいりくんだ精神上の絡みがあつた)さういふわけで、十七の娘のことなど行きづりの気持しかなかつたのに、娘の方では八百屋お七のやうに思ひこんで私を愛してこの娘は変な手練手管などまだ眼中にないのだから、酒飲みの私を愛する故に彼女も亦威勢よく酒をのみ(まつたく常にグッと、一息で誰でも呆気にとられるのだ)そして私達は飲み仲間の歓呼の声に送られて堂々と出発し、銀座を飲み歩いて巡査に叱られたり、そして、あつちのホテルだの、こつちの宿屋で酔ひつぶれた。
けれども娘は頑として肉体の交渉を拒絶し、娘は私に、私は処女ではないのよと言つて抱きついて色々悩しいことをするのだけれども、この娘はたしかに処女とは如何なるものであるか、男女関係の最後の、交渉がどういふものであるか、全然知らなかつたのだと思ふ。
だから私とこの娘は中原中也だの隠岐和一だの西田義郎だの飲み仲間の声援に送られて頻りに諸方のホテルで夜を明したけれども、まつたく肉体の交渉はない。