別に目新らしい論議ではない。
実はあまりにも初歩的な、当然きはまることなので、文学は現実の複写ではないといふ、紙の上の実在にすぎないのだから、その意味では嘘の人生だけれども、かゝる嘘、可能性の中に文学本来の生命がある、といふ。
文学は人性を探すもの、より良き人生をもとめるものなのだから、可能性の中に文学上の人生が展開して行くのは当然なことで、単なる過去の複写の如きは作文であるにすぎず、文学は常に未来のためのものであり、未来に向けて定着せられた作家の目、生き方の構へが、過去にレンズを合せたときに、始めて過去が文学的に再生せられる意味をもつにすぎない。