だから私が荒川熊蔵になつても、自分では別に落ちぶれたとも思つてゐないので、これを笑ふ俗人どもは馬鹿な奴だ、今に穴ボコの中で石と材木に圧しつぶされて死ぬのも知らないで、などゝ得意になつてゐる。
負けいくさの戦争は全く小気味がいゝほど現実に幻想的だ。
工夫に富めるラ・マンチャの紳士ドン・キホーテと云ふけれども、私の方では一向に笑ひ話ではないので、戦争中の私を通観すれば、あんまり工夫に富んではゐなかつたが、然し、ともかく、サンチョ・パンザよりはいくらかましな工夫をめぐらして、それが一向にをかしくもなんともない。