かういふわけでタイタイ先生はさつそくその日の夕刻、マリマリ嬢の働く酒場へでかけることになつたのである。
タイタイ先生は情痴作家の張本人だの邪教の教祖などゝよばれて悪銭を山の如く稼いでゐるやうに思はれてゐるが、実はヤミ市のバラックでからくもカストリ焼酎などゝいふものにウツを散じてゐる御身分だから、麗人がサービスにでる酒場などへは足ぶみしたことがない。
せつかく情痴作家ともあらう者が、一度はそんなところで豪遊してみたいものだ、あゝ残念だと日頃身のつたなさを悲しんでゐたことだから、イヤイヤながら引受けたくせに、実は内心勇みたち、あつちこつちの雑誌社で無理算段を重ねて、ともかく予定の金額がふところに納まつたときには、にわかに紀国屋文左衛門のやうな爽快な気分で、金を持ちつけない人間がたまに握るとみんなかうなる。