さっそく私に結婚してくれなどといったけれども、彼も物分りの悪い男ではなく、女に不自由のない人気稼業で、十両ぐらいで結婚なんて、おかしいでしょう、というと、じゃア時々会ってなどといったが、病後だからとその時はすんだけれども、巡業から戻ってくるたび、毎日のようにやってくる。
墨田川は下町育ちだから理づめの相撲で、突っぱって寄る、筋骨質でふとってはいないけれど腰が強くて投げもあり、大関までは行けると噂のある有望力士であったが、下町気風のあっさり勝負を投げてしまうところがあって、しつこく食いさがるねばりがない。
稽古の時は勝っても負けてもとても綺麗で、調子づくと五人十人突きとばして役相撲まで食ってしまう地力があるのに、本場所になると地力がでずに弱い相手に負けるのは、ちょっと不利になるとシマッタと思う、つまり理智派の弱点で、自分の欠点を知っているから、ちょっとの不利にも自ら過大にシマッタと思う気分の方が強くて、不利な体勢から我武者羅に悪闘してあくまでネバリぬく執拗なところが足りないのだ。