ほかの事なら一度や二度シマッタと思ってもそれから心をとり直して立直ってやり直せるのに、それのきかない相撲という勝負の仕組はまるで人間を侮蔑するように残酷なものに思われた。
相撲とりの心が単純で気質的に概してアッサリしているのは、彼らの人生の仕事が常に一度のシマッタでケリがついて、人間心理のフリ出しだけで終る仕組だから、だから彼らは力と業の一瞬に人間心理の最も強烈、頂点を行く圧縮された無数の思考を一気に感じ、常に至極の悲痛を見ているに拘らず、まるでその大いなる自らの悲痛を自ら嘲笑軽蔑侮辱する如くにたった一度のシマッタですべてのケリをつけてしまい、そういう悲劇に御当人誰も気付いた人がなく、みんな単純でボンヤリだ。
エッちゃん(墨田川は私たちの町内ではそうよばれていた)は特別わが心理の弱点で相撲の勝負をつけてしまい、シマッタと思わなくともよいところで、過大にまた先廻りをしてシマッタと思って、そしてころころ負けてしまう。