千七百八十二年刊行の本書に著者はルソーの句をかりて「現代の世相を見て余はこの書簡集を公にした」といふ。
その筆法では一九四七年の現代でも同じ文句で間に合ふ筈で、これは醇風良俗に進歩がなかつたせゐばかりでなく、最も決定的な理由は、この本が人間性の真相を道破してゐる、だから、どうにも仕方がない、といふ意味に於てだ。
たいがい小説には多かれ少かれ作者の思想めくものが作中人物を思想的に動かしてゐるもので、さうすることによつて、さうしなかつたよりも曰くありげな面魂を作りだし、その作品の声価を高めたり低めたり、評者の評語を強いたりしてゐるものだ。