この男は、先づ一冊の本をたづさへてきたのである。
この本は二十五年前上津浦に布教してゐたマヽコスといふ外人神父の書き残した予言書で、マヽコスは之を残して追放されたと言ふのであるが、五々の年、日域に善童が現れるであらう、善童は習はざる諸道に通達してゐる、東西の空が焼け、枯木に花が咲き、天地震動し、そのとき人々がクルス(十字架)をかゞげて野山をはせめぐり切支丹の世となるであらう、といふ意味のことが書いてある。
ちようどその年には東西の空が一時に焼けるといふ現象が起つて村人達を驚かし、又、源左衛門の庭の枯木の藤の木に花が咲き、それも以前は白の咲いた木であるのに紫の花が咲いた。