スハと一同が立上つて駈けつけてみると、信助夫人は鳶口を下段に構へてヂリ/\とつめより、片隅には芥中介が一斗釜を楯にしてボクシングに身構へてゐる。
信助夫人には余裕があつたが、中介はすでに連戦連敗の相をとゞめ、顔は凄惨な敗色によつて歪み又衰へ、息づかひは荒々しく乱れてゐる。
信助夫人との間には三間ほどの距離があるのに、目をとぢて、右のアッパーカット、左のフック、左右のストレート、なにぶんフットワークを忘れてゐるから勢ひ余つて前によろめき、よろけたハズミに向きが変つて、全然方角の違ふ虚空に向つて、必死必殺のアッパーカットやフックやストレートを間断なく繰りだしてゐる。