然し、人各々好みあり、趣味はあげつらふべきものではないから、懐古趣味も結構であるが、荷風の如くに亡びたるものを良しとし新たなるものを、亡びたるものに似ざるが故に悪しといふのは、根本的に作家精神の欠如を物語る理由でもある。
荷風にはより良く生きようといふ態度がなく、安直に独善をきめこんでゐるのであるから、我を育てた環境のみがなつかしく、生々発展する他の発育に同化する由もない。
正宗白鳥も懐古趣味の人ではあるが、より良きものを求むる心も失はず、より良きものゝ実在を信じてゐるから、彼は新しきものを軽蔑しても、古きに似ざる故に軽蔑するのではなく、その本当の価値をさぐり本質を見究めてのち軽蔑を明にするといふ文学者本来の思考法によつてをり、その見解の当不当はとにかくとして、態度において、文学自体のもつ新鮮さを失ふことがない。