儲口を離れた普通の浮世話になると、彼はまた非常に豊富な材料の所有者であるという事を容易に証拠立てる。
筑摩川の上流の何とかいう所から河を隔てて向うの山を見ると、巌の上に熊がごろごろ昼寝をしているなどはまだ尋常の方なので、それが一層色づいて来ると、信州戸隠山の奥の院というのは普通の人の登れっこない難所だのに、それを盲目が天辺まで登ったから驚ろいたなどという。
そこへ御参をするには、どんなに脚の達者なものでも途中で一晩明かさなければならないので、森本も仕方なしに五合目あたりで焚火をして夜の寒さを凌いでいると、下から鈴の響が聞えて来たから、不思議に思っているうちに、その鈴の音がだんだん近くなって、しまいに座頭が上って来たんだと云う。