その中でも音松君が洞穴の中から躍り出す大蛸と戦った記事を大変面白がって、同じ科の学生に、君、蛸の大頭を目がけて短銃をポンポン打つんだが、つるつる滑って少しも手応がないというじゃないか。
そのうち大将の後からぞろぞろ出て来た小蛸がぐるりと環を作って彼を取り巻いたから何をするのかと思うと、どっちが勝つか熱心に見物しているんだそうだからねと大いに乗気で話した事がある。
するとその友達が調戯半分に、君のような剽軽ものはとうてい文官試験などを受けて地道に世の中を渡って行く気になるまい、卒業したら、いっその事思い切って南洋へでも出かけて、好きな蛸狩でもしたらどうだと云ったので、それ以来「田川の蛸狩」という言葉が友達間にだいぶ流行り出した。