けれども終生芸に捧げ殉ずるといふやうな激しい精進は得難いもので、ツボとかコツを心得てそれで一応の評価や声名が得られると、そのツボで小ジンマリと安易な仕事をすることになれてより高きものへよぢ登る心掛けを失つてしまふ。
別段間者がゐるわけでもなく寝首をかかれるわけでもなく生命の不安があるわけでもない芸術の世界ですらさうなので、自由の天地へつきはなされ、昨日の作品よりは今日の作品がより良くより高く、明日の作品は更に今日よりもより高く、と汝の力量手腕を存分にふるへと許されると始めは面白いやつてみようといふ気でゐても次第に自分の手腕力量の限度も分つてきて、いざ自分がやるとなると人の仕事を横から批評して高く止つてゐたやうには行かないことが分つてくる。
それで始めの鼻息はどこへやら、今度は人のつまらぬ仕事までほめたりおだてたりするのは、自分の仕事もそのへんで甘く見逃して貰ひたいといふ意味だ。