一般に野心家といふものはわが子の一人や二人犠牲にしても野心のためには平然たるもののやうに見えるけれども、案外野心家には肉親的な感情の強い人が多いもので、祖先とか家といふものと同化した動物のやうな保守家の方が却つて肉親的に不感症で、家のためには子供の一人や二人煮られようと焼かれようとと本能的なつめたさを持つてゐるものなのである。
家名のためだなどと云つて我が子を冷酷に追ひだしたり、中には肺病の子供を家名のために早く死んでくれと願つたりする、さういふ冷酷な特異性がもはや特に鋭く訴へてこないほど我々の身辺には家名の虫のつめたさが横溢してゐるのだ。
その御当人が自分のつめたさに気附かずに、甘つたるい家庭小説か何かに涙を流してゐるのだから笑はせる。