敗戦のどさくさ以来、夏川はわざと故郷との音信を断つてゐる。
故郷の知り人に会ふこともなく、親しい人にも今の住所はなるべく明さぬやうにしてゐるのだが、どういふ風の便りを嗅ぎわけて、母がたうとう自分の住居を突きとめたのだか、母の一念を考へて、ゾッとするほどの気持であつた。
夏川が都電を降りると、ヒロシが近づいてきて、ナアさん、お帰りなさいまし、と言ふ。
敗戦のどさくさ以来、夏川はわざと故郷との音信を断つてゐる。
故郷の知り人に会ふこともなく、親しい人にも今の住所はなるべく明さぬやうにしてゐるのだが、どういふ風の便りを嗅ぎわけて、母がたうとう自分の住居を突きとめたのだか、母の一念を考へて、ゾッとするほどの気持であつた。
夏川が都電を降りると、ヒロシが近づいてきて、ナアさん、お帰りなさいまし、と言ふ。