芸者になるには着物がない、着物だ何だと自分の入費ばかりで一文も親の身入りにもならないといふ因業爺の説であり、妾だなどと旦那の物色は金持の先の知れないこの節はやらないことだと云つて闇の女をすゝめたといふのだが、娘は十八、闇の女にはもつたいない美人であつた。
然るべきお金持の妾にして左団扇と母親が子供の頃から先をたのしみに育てたのも水の泡、忿懣やる方なく因業爺を呪つてゐるが、ことの真相は奈辺にあるやら分りはしない。
母親は内気で水商売の女とは思はれぬぐらゐ気立の良さ、人の善さを失はずにゐる女だが、えゝマヽヨと肚をきめると何をやりだすか分らないヤケクソの魂をかくしてゐた。