母親は内気で水商売の女とは思はれぬぐらゐ気立の良さ、人の善さを失はずにゐる女だが、えゝマヽヨと肚をきめると何をやりだすか分らないヤケクソの魂をかくしてゐた。
娘自身がわが身の境遇を不幸だなどとは露いさゝかも思はず、近頃では昼夜家をあけることが多く、焼跡の蒲鉾小屋のやうなオデン屋で酌婦をやつたり、闇屋のアンちやんに頼まれて売子をやつたり、時々金はもつてくる。
金さへあげればいゝでせう、その言ひ方が癪だと云つて母親は凄い見幕で怒りだすが、さほど下卑た言ひ方ではないので、はすつ葉な物腰物の言ひ方にもまだどことなく娘らしさが残つてゐる。