けれども小田原ではさして困らなかつた。
ガランドウといふ奇怪な人物がゐるからで、そこへ行くと、酒もタバコも必ずなんとかしてくれる。
この人物は牧野信一の幼な友達で、ペンキ屋で、熱海から横浜に至る東海道を股にかけて看板をかいて歩いてをり、ペンキ道具一式と酒とビールをぶらさげて仕事に行つて先づビールを冷やしてから仕事にかゝる男なので、箱根へ仕事に行けばわざ/\谷底へ降りて谷川へビールを冷やしてから仕事にかゝり、お昼になると谷底の岩の上でビールを飲んで飯を食つてゐるから、注意して東海道を歩くとよくこの男の姿を見かける。