親代々の今川に見切をつけて信長と結んだ家康は、同盟二十年、約を守り義にたがはず、信長保険の利息だけで他意なく暮し、しかも零細な利息のために彼の為した辛労は甚大で、信玄との一戦に一身一国を賭して戦ふ。
蟷螂の斧、このとき万一の僥倖すらも考へられぬ戦争で、死屍累々、家康は朱にそまり、傲然斧をふりあげて竜車の横ッ面をひつかいたが、手の爪をはがした。
目先の利かないこと夥しく、みすみす負ける戦争に命をかけ義をまもる、小利巧な奴に及びもつかぬ芸当で、時に際し、利害、打算を念頭になく一身の運命を賭けることを知らない奴にいはゞ『芸術的』な栄光は有り得ない。