家康はびつくりすると忽ち面色変り声が喉につかへて出なくなるほどの小心者で、それが五十の年になつてもどうにもならない度胸のない性質だつたが、落付をとりもどして度胸をきめ直すと、今度は最後の生死を賭けて動きだすことのできる金鉄決意の男と成りうるのであつた。
年歯三十、彼は命をはつて信玄に負けた、四十にしてふてくされ小牧山で秀吉を破つたが外交の策略に負け、その時より幾星霜、他意のない秀吉の番頭、穏健着実、顔色を変へねばならぬ立場などからフッツリ縁を切つてゐる。
その穏健な影をめぐつて秀吉のひとり妄執果もない断末魔の足掻き。