敬太郎は、「そうですか、それでは一時頃上りますから、どうぞ御主人に宜しく」と答えて電話を切ったが、内心は一種厭な心持がした。
十二時かっきりに午飯を食うつもりで、あらかじめ下女に云いつけておいた膳が、時間通り出て来ないので、敬太郎は騒々しく鳴る大学の鐘に急き立てられでもするように催促をして、できるだけ早く食事を済ました。
電車の中では一昨日の晩会った田口の態度を思い浮べて、今日もまたああいう風に無雑作な取扱を受けるのか知らん、それとも向うで会うというくらいだから、もう少しは愛嬌のある挨拶でもしてくれるか知らんと考えなどした。