そう思った時、彼は人の狗に使われる不名誉と不徳義を感じて、一種苦悶の膏汗を腋の下に流した。
彼は手紙を手にしたまま、じっと眸を据えたなり固くなった。
しかし須永の母から聞いた田口の性格と、自分が直に彼に会った時の印象とを纏めて考えて見ると、けっしてそんな人の悪そうな男とも思われないので、たとい他人の内行に探りを入れるにしたところで、必ずしもそれほど下品な料簡から出るとは限らないという推断もついて見ると、いったん硬直になった筋肉の底に、また温たかい血が通い始めて、徳義に逆らう吐気なしに、ただ興味という一点からこの問題を面白く眺める余裕もできてきた。