けれども彼の目的とする黒の中折の男はいくら待っても出て来なかった。
ことに依ると、もうとうに西の停留所から降りてしまったものではなかろうかと思うと、こうして役にも立たない人の顔ばかり見つめて、眼のちらちらするほど一つ所に立っているのは、随分馬鹿気た所作に見えて来る。
敬太郎は下宿の机の前で熱に浮かされた人のように夢中で費やした先刻の二時間を、充分須永と打ち合せをして彼の援助を得るために利用した方が、遥かに常識に適った遣口だと考え出した。
けれども彼の目的とする黒の中折の男はいくら待っても出て来なかった。
ことに依ると、もうとうに西の停留所から降りてしまったものではなかろうかと思うと、こうして役にも立たない人の顔ばかり見つめて、眼のちらちらするほど一つ所に立っているのは、随分馬鹿気た所作に見えて来る。
敬太郎は下宿の机の前で熱に浮かされた人のように夢中で費やした先刻の二時間を、充分須永と打ち合せをして彼の援助を得るために利用した方が、遥かに常識に適った遣口だと考え出した。