この場合潜在性慾の敗北は性慾の力の弱きを意味せず、その潜在力の深すぎたことが敗因で、性慾そのものはむしろ強すぎたことにはならぬのかと附言して言ふ、これも当にはならぬ。
結局先生は女好きであつたか知れぬが、この年までまことの恋を知らず、この美少女が初恋で、すつかり戸惑ひしたのだらうと言ふ者もあり、如何に戸惑ひしても、わざ/\恋敵をつくりだすといふことは初恋であるだけに尚更嘘だと言ふ者もある。
見給へ、我々がかうして先生の恋をふりかへつてみると、滑稽だが又悲しくその切なさがむしろ我々に生す力を与へるやうな感激があるぢやないか、我々が先生の恋からこんな感激を受けるやうに、先生自ら自分を他人の如く感激の対象に捨てさつたのぢやないかな。