私が喧嘩の話をして別れようかと思つたほどよと何の気なしに言つてしまふと、あの人ひどく真剣な顔付になつて、そんならすぐにも家を出なさい、一緒にでませう、愉しく暮すことのできるやうな男の友達も紹介してあげるし、なんとかして生活も困らないやうにしてあげる、然し自分自身にはその資力もなし野心もないからつて言ふんだけど、あの人の態度はその時がいつよりもいつと真剣で厳粛で大きな憫れみが籠つてゐるやうで、あの人自身の野心なんか一つだつて見当らない様子だから、ほんとに頼りになると思つたのよ。
まるで魔術にかけられたやうにふら/\家を出ちやつたの。
でも貴方のおうちへ始めて伺つて、この人は女優になりたいさうだけど、なんて言ひだされた時には吃驚したわ、どうせ貴方が拒絶することを見抜いておいて、恰好だけでもつけておくために言つたことかも知れないけど、私の方ぢやそんなことをあの人に言つた覚えもなし日頃考へた記憶さへないほどなんだもの、ほんとに吃驚しちやつたわ」