同じ松本について見ても、この間の晩神田の洋食屋で、田口の娘を相手にして珊瑚樹の珠がどうしたとかこうしたとか云っていた時の方が、よっぽど活きて動いていた。
今彼の前に坐っているのは、大きなパイプを銜えた木像の霊が、口を利くと同じような感じを敬太郎に与えるだけなので、彼はただその人の本体を髣髴するに苦しむに過ぎなかった。
彼が一方では明瞭な松本の批評に心服しながら、一方では松本の何者なるかをこういう風に考えつつ、自分は頭脳の悪い、直覚の鈍い、世間並以下の人物じゃあるまいかと疑り始めた時、この漠然たる松本がまた口を開いた。