あの男の性格には英雄主義的な熾烈な生き方をもとめる傾向が人並すぐれて強く働いてゐますから、あの男の人生観、もろもろの抽象的煩悶は結局政治的関心へまで発展せずにはすみません。
彼はずつと古くから共産主義に心を動かされてゐるのですが、彼を育てた個人主義的な教養と内省とが行動に走ることの一面の欺瞞を許さないため、いまだにぶすぶす内攻してゐるていたらくです。
彼はまた富や名誉を手にいれたいと欲しながら、早くも富貴の虚しさに絶望するだけの苛酷な批判精神を植ゑつけられてゐますので、また恋をもとめてゐるくせに、その恋を実際掴みもせぬうちから已に恋のくだらなさに絶望もしてゐる退屈もしてゐるといふ状態です。