彼はまた富や名誉を手にいれたいと欲しながら、早くも富貴の虚しさに絶望するだけの苛酷な批判精神を植ゑつけられてゐますので、また恋をもとめてゐるくせに、その恋を実際掴みもせぬうちから已に恋のくだらなさに絶望もしてゐる退屈もしてゐるといふ状態です。
いはばあの男は理智と本能の渾沌たる矛盾撞着の中に棲みくたくたに疲れきつてゐるやうなもので、たよるべき一つの信念とか真実を探りあてることができないのです。
彼はまた文学に生きようといふ狂気にちかい情熱すらもつてゐますが、何を書くべきかといふ疑ひのために、さめる筈のないその情熱をさめたやうに感じることしかできないほど絶望もしてゐるのです。