彼は再び階下の部屋をひとつびとつウロウロまはりはじめたが、さつき階下をぐるぐる一巡した時にはどこの部屋にも誰一人ゐなかつたといふ印象がいきなり頭をしめつけるほど強烈に意識にのぼり、心の構へが突然変つて、彼は部屋の各々に人気のないのをたしかめながら、息を殺して一巡した。
果して誰の気配もなかつた。
一応なにか、とにかく考へなければならないことがあるやうな気がして、彼は暫く茶の間の中央に突つ立ちながら耳を澄まして考へようとしてみたが、何も思ふことはなく、なにやらひどく張りきつた空虚が、めまひのやうにぐる/\めぐるばかりであつた。