「感情教育」の中軸をなす物語はフレデリックとアルヌウ夫人の不可能な恋であるが、その恋愛に対照してロザネットへの肉慾的な執着、ダムブルーズ夫人への金銭と名誉を目算しての執着、ロック嬢への平凡な執着なぞ色々と刻明に描かれてゐる。
それらの愛慾図に絡んでフレデリックとアルヌウの野心や名誉や色情や金銭に絡みもつれた複雑な人間関係またデロオリエとの憎悪に満ちた友愛や、フレデリックの政治上の或ひは色情上の野心にからまるシジイやセネカルやデュッサルディエやルヂャンバアルとの交渉と友愛と憎しみ、其交渉の展開する時代的な背景としては二月革命がとりいれられてゐるのである。
之だけの事件的な又人間関係の素材から私が直ちにドストエフスキーを思ひだしたことは決して偶然ではあるまいと思へる。