さりとて、おでん屋といへども、人々の寝しづまつた夜陰に乗じて街へ降りる習ひであるから、百万石のやうなれつきとした飲み屋へは推参の折が殆どない。
牧野信一が在世の頃、百万石から呼びだしの電話をかけてよこした。
彼は二人の文科生を目の前に置き、酔つぱらつて、大いにくだをまいてゐたが、僕をみると、「お前さんはフレンドシップがわかる人だよ」と悦に入つて手を握り、突然学生の方に向き直つて、ちえッ、舌打ちと共にひよつとこの如き悪相を突きだした。
さりとて、おでん屋といへども、人々の寝しづまつた夜陰に乗じて街へ降りる習ひであるから、百万石のやうなれつきとした飲み屋へは推参の折が殆どない。
牧野信一が在世の頃、百万石から呼びだしの電話をかけてよこした。
彼は二人の文科生を目の前に置き、酔つぱらつて、大いにくだをまいてゐたが、僕をみると、「お前さんはフレンドシップがわかる人だよ」と悦に入つて手を握り、突然学生の方に向き直つて、ちえッ、舌打ちと共にひよつとこの如き悪相を突きだした。