田口の家へ出入するようになってからも、須永と千代子の関係については、一口でさえ誰からも聞いた事はなし、また二人の様子を直に観察しても尋常の従兄弟以上に何物も仄めいていなかったには違ないが、こういう当初からの聯想に支配されて、彼の頭のどこかに、二人を常に一対の男女として認める傾きを有っていた。
女の連添わない若い男や、男の手を組まない若い女は、要するに敬太郎から見れば自然を損なった片輪に過ぎないので、彼が自分の知る彼らを頭のうちでかように組み合わせたのは、まだ片輪の境遇にまごついている二人に、自然が生みつけた通りの資格を早く与えてやりたいという道義心の要求から起ったのかも知れなかった。
それはこむずかしい理窟だから、たといどんな要求から起ろうと敬太郎のために弁ずる必要はないが、この頃になって偶然千代子の結婚談を耳にした彼が、頭の中の世界と、頭の外にある社会との矛盾に、ちょっと首を捻ったのは事実に相違なかった。