然しまた触覚によつて意識されるひとつの世界に還元することも、恐らく不可能ではない気がしたのだ。
――非常に空虚であるけれども充実し、そして甚だ単純なひとつの放心の経験であるが濃厚な密度をもつた快感が残らぬことはないのであつた。
ある日のこと下宿の主人が彼の部屋へ這入つてみると、冬のことで部屋の窓はしめきられ室内は濛々たる煙草のけむりでおまけにいきれた悪臭が鼻をつく有様だつたが、林平は寝床の中にひつくりかへつて、涎を流しながら――然しその両眼はたしかに開らかれてゐるのである。
然しまた触覚によつて意識されるひとつの世界に還元することも、恐らく不可能ではない気がしたのだ。
――非常に空虚であるけれども充実し、そして甚だ単純なひとつの放心の経験であるが濃厚な密度をもつた快感が残らぬことはないのであつた。
ある日のこと下宿の主人が彼の部屋へ這入つてみると、冬のことで部屋の窓はしめきられ室内は濛々たる煙草のけむりでおまけにいきれた悪臭が鼻をつく有様だつたが、林平は寝床の中にひつくりかへつて、涎を流しながら――然しその両眼はたしかに開らかれてゐるのである。